体長は50cmから150cmほど。体重は大きなものでは30kgを超えるものもあるが、大体5kg~10kgの中くらいのものが一般的には美味とされている。体型は、まるで上から押し潰されたかのような扁平な形で、体全体の1/3程が頭部を占める頭でっかち。見つめ合うと思わずどきりとする鋭い目に、大きな魚でも丸飲みにしてしまう横に広がった大きな口、そして、捕らえた魚は絶対に逃さない鋸のようなぎざぎざの歯を持つ。奇怪こそあれ、堂々とした存在感を放つ。
海底に静止して殆ど泳ぐことは無い。食事の時には、頭上のアンテナのような突起で餌となる魚を誘き寄せ、水ごと飲み込んで消化する。毎日、動かずに暗いところで食っちゃ寝な生活を繰り返していることから‘暗愚魚(あんぐうお)’と呼ばれていたことが、あんこうの語源とされている。
あんこうは江戸時代の頃から既に庶民に食されていた。生活費の大半を食費が占め、数多くのものを食材として取り入れた、食欲と好奇心の旺盛な江戸っ子ゆえ、骨以外はすべて食べることができ、風貌からは想像出来ないほどの味わいを持つあんこうは江戸っ子垂涎の的であった。また、当時、「初物七五日」という言葉があり、初物を食べると七五日寿命が延びると言われていた為、初物が出回る頃には皆が大枚をはたいて買い求めた。しかし、年を追うごとにその加熱ぶりは増し、物価が高騰していったことから、政府はそれぞれの食材に売り出し時期の制限を行い、物価の安定を図った。あんこうに関しても解禁日が定められており、11月がその時期とされていたため、11月のあんこうは『霜月あんこう絵に描いても舐めろ』という唄が詠まれる程の引き合いであった。
「鮟鱇は唇ばかりが残るなり」という『俳風柳多留』の唄が象徴する通り、鮟鱇は体の部位ほとんどを食すことができる。地方により、多少の違いはあるものの、一般的には柳肉(大身)・皮・肝・あご肉(ブリブリ)・ひれ(トモ)・卵巣(ぬの)・胃の7部位を俗に「鮟鱇の7つ道具」と呼んでいる。部位ごとにそれぞれ異なる食感や味わいを楽しむことができるのもあんこうの魅力の一つ。
図体が大きく、体全体にぬめりのあるあんこうは、まな板の上では滑って捌くのが難しい。無理に行うと内臓を傷つけてしまう恐れがあるため、独特な「吊し切り」の調理法が生み出された。この調理法は江戸時代の『本朝食鑑』(平野必大、1697年)にて既に紹介されている。
縄を魚の下唇に貫いて横梁に懸け、口から胃に大きなひしゃくで水を五、六升ほども注ぎ入れる。その水が口から外に溢れ出して止むのを待ち、先ず頸喉の外皮を断ち、次第に身の周りの黒白の皮を剥ぎ尽くし、再びもとに戻って両辺のひれ及び周りの肉を割き尽くしてから、肝を取り、腸を割き、骨を断ち、最後に刀で胃を刺すと水がはしり出るので、すぐに包丁を洗い去る。もし、この法を知らずに妄りに鮟鱇を割くなら、肉は皮身に付き、腸肝はこわれて用いられなくなる
高蛋白低脂肪で健康に良い魚として知られるあんこうであるが、数ある部位の中でも最も代表的なのがあん肝。濃厚で口溶け滑らかな独特の味わいは、‘海のフォアグラ’と称されるほどの珍味。脂肪含有量は40%超と鮪トロの約2倍の水準であるが、一方で不飽和脂肪酸IPAやDHA、ビタミン・ミネラル等も豊富に含むため、コレステロール値を低下させ、免疫力を強化する効果がある。また、皮のゼラチン質に多く含まれるコラーゲンとの相乗効果で、美肌効果も期待できる。